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マリノスの10年後の姿 ~西野努SDの壮大な構想~

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西野努氏がスポーティングダイレクター(以下、SD)に就任し、あれよあれよという間に2025シーズンからマリノスの指揮を執るスティーブ・ホランド氏の監督就任が発表された。

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2024シーズンは惨憺たる結果に終わった中で、マリノスが次なる航海へ打って出る時代が始まる。「アジア、そして世界へ」が次章のテーマ。これは、中山社長が新体制発表会にてクラブの中期経営計画の柱として度々公言しており、我々サポーターにも共有された目標だ。

たしかに2024シーズン、我々は念願のアジア制覇まであとひとつの場所まで漕ぎつけた。しかし、その「あとひとつ」がかなり高いハードルである惨い現実も突き付けられた。もう一度やったらアルアインに勝てると言うためには、大きな溝を埋める必要があるゲームだった。あれから半年が経った今、マリノスがアジアを制し、世界に出ていくために何をしようとしているかは見えてこない。しかしサポーターとしては、クラブが描く絵図を理解・共感した上で、はじめて応援できるものではないだろうか。
こうしている今も、マリノスの新たな航海に向けた準備は、新SD・西野努氏のもとで着々と進行している。まさに過渡期といえる状況下で、此度のスティーブ・ホランド監督就任は、クラブが描く中長期的なロードマップを窺い知る最初のヒントであり、ここから読み解けるストーリーがあるのではないかと考え、本稿の執筆に至った。クラブの動きから何を読み取るか、ひとつの正解という位置づけで参考とした上で、クラブ・西野努SDが、中長期的にどのような成長曲線を描いているか、各々で妄想をしてみてほしい。

記事の序盤は大局から、つまり、世界からアジア、そして日本にかけて昨今のサッカーをめぐる傾向や課題感を述べた上で、後半では、今回の監督選定から見える西野努SDの思惑やマリノスが5年・10年のスパンでどうなっていきたいと考えているかを、やや憶測がメインにはなるが、述べていきたい。

後半部分の、マリノスが描く未来に係る内容を読んでいただければ、私が本稿を通じて伝えたい結論はご理解いただけるだろう。しかし、憶測がメインになるため、ロジックに納得感が得られないかもしれない。その場合には、前半部分の内容もあわせて手に取っていただければ幸いである。

また本来、サッカーを取り巻く要素は、ピッチ上のみに非ず。社会・経済・政治・医療・エンタメなど多種多様な分野が複雑に絡み合って成ることは百も承知だが、本稿は、此度の新監督就任に端を発しているため、いわゆるピッチ上の側面(監督や選手の編成や戦術)に特化したロジックとなることをご承知おきいただきたい。

 

第1章 マリノスを取り巻く環境と課題

1. ヨーロッパ中心主義

世界のサッカーは、ヨーロッパを中心に回っている。これは、サッカーに明るくない人でも知っている「自明の理」だ。サッカーそのものの競争力はもちろん、資金も人材も、すべてがヨーロッパに集中している。同じサッカーという競技にも関わらず、Jリーグプレミアリーグでは選手・監督の給与、チケット代などが全く違う。

ここでは、本稿の趣旨に則し、監督・指導者に特化して考えてみたい。たとえヨーロッパで生まれていなくても、指導者を志す若者の多くは、ヨーロッパで監督をやりたいと夢見て海を渡る。やりがいがあって、世界中に自らの存在を知らしめることができ、高い給料をもらえるからだ。

しかし、指導者を志す者がどれだけ集まっても、クラブの数がそれに比例して増えるわけではないため、全員が希望するクラブで監督をやれるわけではない。そこにはシビアな競争がある。たとえ必要なスキルを備えていたとしても、運や巡り合わせといった理不尽な要因によってチャンスを得られず、冷や飯を食わされている指導者が大勢いる。つまり、ここで言いたいのは、ヨーロッパには、監督を志す指導者が有り余っているということだ。
その中で、スキル以外に指導者に必要なものは、実績である。つまり、自らのスキルを証明する、ひいては、他の指導者と差別化を図る材料がなければならない。この点、一般社会における就活と似通っていることからもご理解いただけるかと思う。

以上、サッカー界におけるヨーロッパ中心主義、指導者人材のヨーロッパ流入、そしてヨーロッパでのシビアな競争と実績の必要性。世界のサッカーをめぐる基本構造は、向こう10年変わることはないだろう。

2. 躍進するアジア

では、アジアの状況はどうか。

昨今、サウジアラビアを中心に、ヨーロッパから優秀な指導者を大金で引き抜き、ネイマールやCR7ら世界的なスーパースターがこぞってアジアに流入している。彼らが、規模を拡大したACLエリートで活躍することで、アジアのサッカーがヨーロッパにも伝わる。また、サウジやカタールなど中東でサッカーに力を入れている国々は、育成年代にもスペインやポルトガルの優秀な指導者を連れてきては、ヨーロッパスタンダードの考え方に基づき、小学生年代から優秀な選手を育てている。つまり、アジアとヨーロッパがサッカー的に近づいていることは間違いない。今やアジアのサッカーは、ヨーロッパにとっても無視できない存在となりつつある。

アジアとヨーロッパが地理的に地続きで距離が近いこと、歴史的に交流が深いこと、またアジア(最近は中東)のマネーをヨーロッパが欲していることなどを鑑みても、ヨーロッパひいては世界のサッカー界におけるアジアのプレゼンスは向上しており、かつ上記3つの観点が不変的性質を持っていることから、今後も向上し続けるだろう。

3. 日本サッカー・Jリーグが抱える課題

世界のサッカーの中心たるヨーロッパスタンダードに合わせようとする動きは、数年来、極東に当たる日本でも活発化している。しかし、ヨーロッパからやってきた指導者のもとで結果が出ず、短期で首を切られる事象が数多くのクラブで見受けられる。サポーターの間でも、「1年目は我慢」、「和式と様式の違い」、「正解を課す学校教育」など、改善の見通しも立たないような課題・理論の数々がタイムラインを駆け巡る光景は、枚挙にいとまがない。

個人的見解として、日本のサッカーが必ずしもヨーロッパスタンダードに迎合すべきとは思わないが、日本における指導者業界の現状(安価な賃金、やりがい搾取)などを踏まえても、ヨーロッパから来た優秀な指導者が、日本にノウハウを落とし込み切る前に自国に帰ってしまうことは、機会損失である。これが続くのであれば、由々しき事態だ。昨今のJリーグを見ていても、トレンドに迎合したサッカーを展開するクラブが多く、変わり映えのしないゲームが多い印象がある。他方、一貫した哲学やスタイルを重視したクラブが隅に追いやられる現状は、コンテンツとしての面白さや日本サッカーの成長においてプラスにならないことから、優秀な指導者のもとで、各クラブがもう一度哲学・スタイルの構築に取り組む機運は高まっていると考える。

もう少し具体的に踏み込んでみる。外国人の指導者は、当然ながら日本人の思考や文化、価値観をほとんど知らない状態でやって来る。どんなに勉強熱心な指導者でも、必ずズレが生じる。すると、現場において日本人選手と外国人監督との間に溝が生まれる。もっとタチが悪いのは、ふんわりとした違和感が付きまとった状態でシーズンが進み、なんとなく勝てない状態に陥ること。その過程で、段々と外国人監督の方が孤立し、クラブも最後には切らざるを得ない状況になる。取っ組み合いの喧嘩をするくらいの方がまだ健全。Jリーグの各クラブは、このズレへの意識があまりにも低い。

ならばどうすべきか。監督と選手との仲介を務める役職を置くこと。監督の意向を伝えた上で選手とのコミュニケーションを取り、適宜選手側の意向を監督と調整する。可能ならば、日本人指導者でその役割を担える人材が置ければベストなのであろうが。

 

第2章 マリノスの未来予想図

1. 持続可能な強さを手に入れるために

西野努SDは何を描いているのか。サッカー界の構造ーーヨーロッパに監督としての実績が欲しい指導者が有り余っていて、アジアはヨーロッパから注目される市場であり続ける状況を踏まえた上で、日本の盟主を謳うマリノスは今から何に取り組むのか?

結論から言うと、「監督選定プロセスモデルの構築・確立」と考える。

監督選定プロセスモデルとは、監督を選ぶ際に、この要素は備えていてほしいという条件を標準化し、今後の意思決定の基準とすること。例えば、家探しにおいて物件を選ぶ際に、候補物件をとりあえず並べて吟味するのではなく、駅から物件にかかる所要時間、間取り、日当たり、浴室乾燥の要否等の条件等、自らが物件に求める要件・根本的な考え方を予め定めておくことで、常に失敗しない家探しの実現を期す。監督選定を常に成功に導く、つまり結果を出し続けるのであれば、その上で、招聘した監督へのサポートの仕方など就任後のプロセスをノウハウ化しておくことも必要かもしれない。

これが実現すれば、クラブは、現場責任者の選定という重大かつ困難な意思決定における基盤を築くことができる。たとえ土壇場でケヴィンにフラれたとしても、円滑な監督選定が可能になる。

現状Jリーグにおいて、監督選定プロセスモデルの確立まで至っているクラブは存在しないだろう。監督選定においては、強化部門責任者が独自に持つコネクション(主に、代理人との関係値)に左右されることが多い。転じて、強化部門責任者の交代によって一貫性が保てなくなったり、真にクラブが築き上げたいスタイル、目指す方向性と異なる道を歩むことを余儀なくされることがある。

この点、西野努SDは、自身のブログにおいて、SDの役割を次のように定義している。

【SD/TDの役割】
SD/TDの役割は、チームを継続的に成長させること。その仕組み(システム・人・組織文化)をつくること。その上で、チームが結果を残す事。(この優先順位が大切)

旧態依然の属人的かつ主観的なプロセスでなく、非属人的かつ客観的な監督選定の仕組みを構築し、確立させることで、クラブが持続可能な基盤を手にすることができる。もし、西野努SDがマリノスでこれを確立したならば、Jリーグにおける盟主として、再び他クラブがマリノスに倣う構図となるだろう。

2. マリノスは今後、どんな監督を連れてくるべきか

では、マリノスはどのようなプロセスを確立しようとしているのか。ここから先は、先述した昨今のサッカー界の状況および此度のスティーブ・ホランド氏の選定を前提として、憶測がメインにはなるが、解像度の高い妄想にお付き合い願いたい。

まず、アンジェ・ポステコグルー以後の監督選定条件は、ざっくり以下が挙げられる。

  • アンジェのフットボール哲学を理解していると判断できる経歴を持つ
    コーチングスタッフとして師事した経験・同一クラブを率いた経験)
  • アンジェのフットボール哲学を理解した、クラブに留任するコーチ陣と仕事ができる(オーストラリア人、または百歩譲って英語話者)

そこから選ばれたのがケヴィン・マスカット、そしてハリー・キューウェルであった。ただし両名とも、他の候補者が非常に少なく、緻密なスクリーニングがかけられたとは言い難かった。

他方、スティーブ・ホランド氏の特徴を鑑みると、今後以下のような選定条件で監督を探すことが可能かもしれない。

  • 監督の経験はなし(育成年代はあり)
  • 豊富なトップレベルのコーチ経験
  • 今後、監督として名を上げたい野心家

無論、完全にこれだけで決めたわけではない。現スカッドの得手不得手を鑑みても、これまで積み上げた攻撃的な姿勢を崩すメリットは皆無。基本的に、みんなが常にゴールを意識することで意思統一を図る手法は崩さないだろう。つまり、クラブの哲学に賛同してくれる人材であることはマストな条件である。

一方で、上記に該当する優秀な人材は、第1章で述べたとおり多い。しかも彼らは、実績を持たない分、比較的低コストで連れてくることができる。ジョゼ・モウリーニョペップ・グアルディオラマリノスに来るのは予算規模やブランドなどを加味しても非現実的。しかし、そのコーチを務めていた人材であれば、親分を招聘するよりはるかに障壁が低く、彼らが世界的名将に師事した経験がクラブに還元される。

ただし、このプロセスを遂行する上で必ず生じる懸念点として、監督という立場、そして日本での指導経験がないリスクへの対応がある。この点、コストとの見合いにはなるが、まずはスティーブ・ホランド監督をスタッフをはじめとする組織やその他あらゆる面でサポートし、ノウハウを蓄積することが必要になるだろう。ハリー・キューウェル招聘が失敗に終わったことも反面教師にしながら固めていかなければならない。

現場責任者の選定とサポート、これらが上手くいったとき、マリノスはアジアを代表するクラブとなり、大変好ましい人材交流の連鎖構造に入る。

  1. アジアにおけるブランド力・プレゼンスを高める(ACLEでの好成績)
  2. ヨーロッパで監督を志す優秀な指導者の目に留まる
  3. ヨーロッパから来た指導者が、マリノスで手腕を発揮し、実績を作る
  4. 実績を引っ提げて、やがてヨーロッパのビッグクラブの監督の地位に就く
  5. 別の指導者が「マリノスに行きたい」と望む

上記をまとめると、マリノスは、ヨーロッパへの返り咲きを目する、優秀かつ実績を欲する野心的な指導者を次々と招聘することになるだろうティーブ・ホランドの在任期間は、長くても3年。おそらく2年半程度でクラブを去るかもしれない。ヨーロッパ中心主義のサッカー界において、優秀で実績のある指導者は、すぐに引き抜かれてしまう。クラブに多大な貢献をした人物ほど、早くクラブを去らなければならない。こうした環境下で、クラブが確かな基盤を築くことの重要性は、従前より高まっている。

そのためにも、最初は肝心。スティーブ・ホランド氏とともにまずやってみる。やっていく中で、プロセスを補強していく。やがて成功に導き、クラブの財産として遺す。西野努SDの仕事は、ここまでやって完結する。

成功すれば、日本サッカー史にその名を刻める。まだ誰も成し遂げていない偉業に向けた新SDの挑戦が始まるのだ。我々サポーターも、彼の挑戦を見守り、支え、共に偉業を成し遂げよう。

3. 西野努氏は、なぜマリノスへ来たのか

西野努氏がマリノスへ。この第一報が出てから、ずっと引っかかっていたことがある。

「なぜ浦和を出る必要があるのか」

予算規模もマリノスをはるかに凌駕する故、強化部門責任者として浦和以上にやりがいのあるクラブは存在しないと考えていた。一部で、権力的ないざこざがあったとのウワサも目にしたが、真偽は不明だ。

しかし、スティーブ・ホランド氏がマリノスに就任するかもしれないとのニュースがタイムラインを駆け巡った瞬間から、マリノス西野努SDの描く絵図を推察する中で、急に合点がいった。

先述した監督選任プロセスを前提とすると、CFGとの関係は欠かせないのだろうマリノスが監督選定や外国籍選手獲得時に利用するCFGデータベースの存在が、何よりも重要である。データベースという形式につき、完全にフラットな状態で世界中の指導者の性格的な素養やスキルについての情報を得ることができるからだ。このデータベースさえあれば、モデル化・仕組み化がしやすい。

マリノス強化部としての考え方を一律に定めておき(時勢・トレンドに合わせる余地は残しつつ)、データベースから条件に合う候補者を絞り出し、面談を通じて選定。決定した監督に対し、具体的にこういうサポートを行う、という具合に。

西野努SDとしても、マリノスでの成功だけを期して転職を決めたわけではないはずである。昨今の世界のサッカー事情や日本サッカー・Jリーグにおける課題感を踏まえて、自身が何をすれば歴史に名を刻めるか、という野心を携えて横浜にやってきていることは間違いない。その上で、自身の立身出世とマリノスで成し遂げられそうなこと。この2つが合致したのだとしたら、浦和を去った判断にも納得感がある。

 

あとがき

長文となったが、ここまで読み進めていただいた皆さんに感謝したい。特に、第2章の後半部分において、やや憶測ベースになってしまったことからも、筆を走らせるのが時期尚早であったことは否めない。しかし、今ある情報をかき集めて「こうかな?」と解像度の高い妄想にふけることが好きな私にとっては、西野努SDのもとでマリノスがどう歩んでいくかをイメージすることができて、大変貴重な機会となった。なによりも、2025シーズン以降もこのクラブを応援したくなった。

また、2024シーズンの虚無感から、ここ最近マリノスに希望が見いだせなかったサポーターも多いだろう。そういう方々に本稿が届いてほしい。マリノスは、実を伴った壮大な構想を今まさに推し進めようとしており、これを目の前で見届けられる我々は、他クラブと比較しても、大変恵まれているのだと。

本稿のすべてに共感いただく必要はないが、部分的にでも首肯し、来季以降、ひいては10年後のマリノスに想いを馳せる、楽しみにするきっかけとしていただいたのであれば幸いである。そして、ご自身でも此度のスティーブ・ホランド氏の就任を前提として、10年後のマリノスに想いを馳せる上で、本稿をたたき台としていただきたい。

 

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❶2024シーズンのマリノスの歩みをまとめたシーズンレビュー記事

上記の命題をテーマとして、現状のマリノスが、たとえ監督が変わったとしてもチームとして抱える根本的な課題を紐解く記事を書いています。本稿とセットでぜひ読んでいただければと思います。

 

rod25.hatenablog.com

 

❷1/12 Footrico! 公開生放送 in みなトリ祭24/25への出演

マリサポ系情報番組「Footrico!」の公開生放送に、私ロッドが出演させていただく運びとなりました!

https://x.com/footrico_yfm/status/1859962236326088782?s=46

日付は2025年1月12日(日)。場所は、横浜市金沢産業振興センターです。マリノスの新体制をはじめとした未来の話を、MCのnariさん・akiraさんとたくさんお話できればと思っておりますので、ぜひお越しください。こちらの公開生放送以外にも、みなトリ祭はサポーターが作る文化祭で、マリノスをもっと好きになれるイベントになっています。きっと楽しめるはず!!

詳しくは、下記Xアカウントをご確認ください。

https://x.com/minatricofes?s=21

 

2/8 マリサポ主催音楽イベント「STEP ON PARTY」

筆者の友人(マリサポ)が2025年2月8日(土)に恵比寿で音楽イベントを企画しています。
今回が3回目の開催!登場するDJも、サポーターはじめ、マリノスにゆかりのある方々ばかりなので、ぜひご参加ください。サポーターから音楽の文化を作り、クラブも巻き込むことを目標に置いた活動の一環です!
もちろん筆者も参加するため、ご挨拶も兼ねて会場でマリノスの話ができれば幸いです。

詳しくは、下記Xアカウントをご確認ください。

https://x.com/step_on_j?s=21