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【低迷の原因究明】横浜F・マリノス2024シーズンレビュー

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プロローグ

「メンバーが大きく変わったわけではない。それなのにどうして・・・?」

素直にこう疑問を抱くサポーターも少なくないだろう。
今のマリノスは、2022シーズンの優勝メンバーを主軸に構成されている。続く2023シーズンも2位でフィニッシュし、そこから主力のほとんどが残留したチームが、たった1年で残留争いに巻き込まれるほどの低迷を強いられた。

その原因・理由を解き明かすべく、毎年恒例のシーズンレビューを寄稿する。

「2025シーズンから強化責任者も監督も替わるのだから、2024シーズンは忘れよう」と捉えているあなたは、とりわけ第2章に目を通してほしい。トップが替わっても、プレーするのは選手。2025シーズンに向け、スタメン全員が入れ替わる見込みはなく、30人前後から成る選手同士の得手不得手や組織構造は変わらない。来季もマリノスマリノスである。
マリノスが根本から別のチームに変わることはないのだから、一見すると虚無に満ちたこのシーズンを直視し、整理することによって、2025以降の歩みをより楽しむことができる。私はそう確信している。
前置きが長くなったが、本編に入る。まず第1章では、シーズン通じてピッチ上で何が起きていたかをざっくり掻い摘んで編年体形式にてストーリー化してまとめた上で、第2章から第3章にて、低調なシーズンとなった理由・原因をいくつかの観点で分析しつつ、来季に繋がる希望の光にも言及したい。最後の第4章では、ピッチから少し離れた視点で、2024シーズンを通じて浮き彫りになった、マリノスがクラブとして包括的に抱える課題に言及する。
さくっと要点だけ掻いつまみたい方は、第1章を読み飛ばすことを薦める。

第1章 「年間61試合」の歩み

強化部とハリーの齟齬

今となっては遠い昔の出来事のように感じるが、2024シーズンは、ケヴィン・マスカット前監督との契約更新が不調に終わり、急遽セルティックからハリー・キューウェル監督を招聘したところから始まった。ただし、スカッド編成にハリーはほとんど関知せず、彼がオーダーした補強は皆無の状況でスタート。
目標は、何よりもアジア王者つまり、シーズン序盤・5月の決勝で、ワールドクラスのプレイヤーを数多く擁する中東の金満クラブに勝てるチームを作らなければならない。そのためのアプローチとして強化部は、スカッドを大きくいじらず、2023シーズンまでのマリノスをベースとし、その最大値を出すことで目標達成という絵図を描いていたことは明らかだった。

しかしハリーの思惑は、やや異なった。彼なりにブラジル人依存の強い2023シーズンまでのマリノスを分析した上で、より属人性を排した攻撃的なサッカーを落とし込もうとしたのだ。個人的な見解では、ハリーの取り組みには一定の共感・納得感があった。ロペスは孤立し、エウベルをゴールから離れた位置でしかプレーさせられない、「アタッキングフットボール」とは名ばかりの後ろ重心のサッカー。つまり、ケヴィンが創り上げたマリノスに内在した構造的欠陥にメスを入れる英断と信じた。

ロペスの近くに2人のシャドー(インテリオール)を配置したことで、より崩しの威力を高めたマリノスは、時として2023シーズン後半の閉塞感を打ち破る攻撃も我々に見せてくれた。

ところが、メリットよりもデメリットが顕在化するゲームが続く。
大前提として、昨今のJリーグでは、ひたすら敵陣に長いボールを送り込む戦い方を志向するチームが多く、マリノスは必ず自陣でのプレーを強いられる。つまりビルドアップの局面が必然的に多く・長くなる。保持/非保持を問わず、敵陣でプレーし続ける構図を生み出すのは、彼我の関係においてかなり難しいということをまず念頭に置きたい。

その上で、ボール保持において前線に人数をかける分、前進(ボールを運ぶ作業)に参加する人数が減ったことで、ビルドアップが壊滅した。出発点となるエドゥアルドと上島は、相手を揺さぶる、スペースを作ることに長けておらず、アンカーを務めた喜田も、ロングレンジのパスなどをはじめとして、ハリーが思い描くサッカーを実行するにはいくつかクオリティの部分で足りない箇所(=苦手なことに取り組まないといけない箇所)があった。

苦手との悪戦苦闘

では、なぜ思い描くサッカーに対して苦手を抱える選手たちを起用しなければならなかったのか。

アジア王者に向けた戦いでは、負けが許されないからである。上島・エドゥアルドの対人守備・迎撃の強さ、喜田のバイタル周辺スペースの危機管理能力、何よりもキャプテンシー。良いサッカーをすれば目先の試合で勝てるわけではない。どんなに内容が良くても、1試合につき3回はピンチが訪れるもの。これを1本防げるのと2本防げるのでは勝敗に天と地ほどの差を生じさせる。

この点、より目先の勝敗にフォーカスせざるを得ない目標を打ち立てたことで、現場・監督と強化部との間に齟齬が生じた。「良いサッカーをすること(=ハリーの理想)」と「目先の試合に必ず勝つこと(=クラブの目標)」の両取り、つまりクラブの過渡期として再構築を見据えるハリーと今季アジアを勝ち取りたい強化部、両者の希望を折衷的に取り込むことになった。その結果、選手が得意分野だけでなく、不得意分野における急速な改善が求められ、その歪みは、ゲームの端々にミスとなって表出した。

それでもACLは粘り強く戦い、ついに決勝までたどり着いたが、エウベルの腕の負傷により片翼をもがれ、アジア王者の夢は叶わず。国内の戦いに身を投じることとなった。

ハリーは柔軟な監督だった

ハリーの特徴として、大枠の理想は掲げるものの、目先の試合・展開においてはかなり柔軟に戦い方を変える節があると私は捉えていた。その最たる例は、渡辺皓太に全権委任するアプローチを採用したこと。先述したビルドアップの問題解決を期し、彼のポジションを一列下げることでより流動性を持たせた。中盤に降りてビルドアップに関与しつつ、崩しでは最前線に出ていくなど、すべてを渡辺皓太が担うこの形こそが、ハリーがマリノスにおいて最後に見出した解となった(結果的にハリーが7月中旬に契約解除となったことで、その先を見ることはできなかった)。

結果的に、ハリーの戦略家としての手腕に対する評価はクラブからも出されず、選手・スタッフとの不和などマネジメント面の課題を問われる形で、彼はマリノスを去った。しかし、過密日程下で戦術を落とし込む時間も限られる中で、チームが少しずつできることを増やしていたことはたしか。組織としてだけでなく、井上健太ら個々に爆発的な成長を遂げた選手がいたことからも、彼もこのクラブに寄与した正統なアタッキングフットボールの後継者の1人であったことを書き添えておきたい。

原点回帰・ジョン再登板

ハリーが契約解除となったことを受け、ジョン・ハッチンソンがコーチから暫定的に監督に昇格。前半戦で煮え湯を飲まされた町田戦の快勝をはじめとして、7~8月を好成績で乗りきる。ジョンは、エウベルやアンデルソン・ロペスのクオリティを最大限に活かして前進(ビルドアップ)の問題を解決し、フィニッシュのパターンを整理したことで、いわゆるマリノスらしい攻撃の形がたくさん見られたのがこの時期だった。ハリーが改善しようとしたケヴィン期からの根本的な課題は、そのままクローゼットの奥底に収納されることになったものの、試合をして、課題が出て、トレーニングで確認・修正する。このサイクルを正しく回すことができるマリノスは強い。それを如実を示す真夏の戦いであった。

相次ぐ大敗!「死の日程」

そして、晩夏の15連戦に入る。

この期間は、試合間のインターバルのほとんどを回復に充てる必要があったと想定され、ほぼぶっつけ本番の状態が続いた。かつ、メンバーを入れ替えながら戦うため、連携面の粗も当然出やすくなる。その結果、少ないトレーニングの時間的リソースを、特に紛糾する守備面の改善に割く反面、今度は攻撃に停滞がみられるなど、チームの強みが出にくく、非常に厳しい状況となった。試合を追うごとに、少しずつ守備面とりわけ敵陣のプレッシングの改善に挑んでいる様子は見てとれたものの、「勝ちたい」想いの強さ、そして何よりも盲目的な信奉に基づく攻撃的な姿勢が、むしろ相手にスペースを与えることとなり、頑張れば頑張るほど相手が美味しい思いをする悪循環に陥っていた。

また、リーグ戦は、早々に優勝が現実的に狙えない位置が確定したため、本来ならば明確に消化試合と位置づけたいタイミングもあった。しかし、ショッキングな連敗が続く状況では、チームのモチベーション向上のため、必勝を期さなければならない。その結果、ブラジル人アタッカーら主力を連投させざるを得ないなど、こちらも悪循環であった。

過密日程が緩和した11月以降、再び正しいサイクルを作れるようになったことで成績が上向いたが、過密日程下の不調は、最後まで改善を見ることはなく、結果的に無冠でシーズンを終えた。

 

第2章 マリノスとはどんなチームか?

「アタッキングフットボール」や「ハイリスク・ハイリターン」など、マリノスのサッカーを表現する言葉は数多く流布されている。しかし、こうした言葉の数々は、定義や解釈にばらつきが生じることから、実態を正しく表す言葉としてふさわしくないと考える。

そこで、2024シーズン終了時点のマリノスとはどんなチームかをここで定義する。

ブラジリアン・トリデンテ

マリノスとは、前輪駆動のチームである。つまり、前線のアタッカーを軸に後ろが決まっていく。給与体系を推察しても、エウベル、アンデルソン・ロペス、そしてヤン・マテウスの3人が大きなウェイトを占めていることは言うまでもない。

なぜヘトヘトのロペスを下げないのか、なぜコンディションの悪いエウベルをスタメン起用するのか。ここにすべての答えがある。ジョンや他の選手たちにとって、彼らに代替可能な選手などいないという評価。そして、この点で我々ファン・サポーターの評価と決定的に乖離しているのだ。

クラブが彼らに期待するクオリティ、積み重ねた実績、チームメイトからの信頼は、植中朝日や井上健太がどれほど背伸びをしても上回ることは難しい。例えば、今季急成長を遂げた井上健太は、味方との連携や守備面の貢献など、とある面でエウベルよりも高い実効性を示す選手にまで上り詰めた。私も、左ウイングのスタメンは井上健太が務めても遜色ないと考える。

しかし、エウベルの安心感(とりあえず預けておけば心配ない、あとはすべてやってくれる)は、我々の想像以上に根強い。現状、ボールを奪われた後のリスク、自陣守備の貢献度。これらすべてをドブに捨ててでも、エウベルがいる安心感には勝てない。彼がマリノスに来てからの4年間で築いた信頼は、そう簡単には揺るがない。

ロペスにも同じことが言える。残り10分で1点差、あるいは2点差であってもロペスを替えることはできない。
もし事故が起きて追いつかれたら?マリノスは、点を取らないといけない。残り時間に比例し、チャンスは作れても一つか二つ。その状況で、ロペスの決定力、ストライカーとしての嗅覚は唯一無二であり、現状の植中朝日では代替できない。瞬時の判断でパスを出す水沼宏太が、コイツなら絶対決めてくれる!と100%信じられるストライカーがボックス内にいることが大事。仮に決定率のデータ上、植中朝日がロペスを上回っていたとしても、ジョンはロペスを残すだろう。もはや好き嫌いや偏見の範疇に入ってくるが、在籍3シーズンでロペスが築き上げた信頼が、揺らがないほど強いことの証左である。

いやいや、実際は他の選手でも機能するのではないか?

私もそう思う。しかし、日々寝食を共にする現場の指導者・選手にそう思わせるほど、ヤン・マテウス、エウベル、アンデルソンロペスの存在感が絶大であり、裏を返せば、すでにそれほどアンバランスなチームになってしまったことに目を向けるべきではないだろうか。

アンジェの哲学「積極的かつ流動的」

マリノスの不調を見極める指標がある。それは、エウベルやロペスにとりあえずボールを預けて、誰もその先のアクションを取らない状況である。相手DFを背負うロペスにボールが渡っても、誰も近寄ってサポートに行かない。エウベルがカットインして切り込んでいるときに裏抜けをしない、など。

彼らのコンディションと相手の守備の強さ次第では、それでも点が取れてしまうゲームもあるのだが、基本的には後ろに重い状態で、停滞感が出やすいのが傾向としてある。

この点、サイドバックボランチがいかに勇気を持っていち早く前に出て行けるか」が試される部分でもある。特に、4バック+ダブルボランチの形で、かつポジションの枠に縛られないアンジェの哲学に照らせば、サイドバックボランチが他チームより流動的かつ迷いなく前線に絡んでいけることが最大のメリットである。ここは、小池龍太や西村拓真、永戸勝也がシーズン終盤に見せたパフォーマンスが、今のマリノスにとって欠かせないことにも係る。詳細は、第3章を参照されたい。

齟齬をすり合わせる必要性

過密日程による準備期間の短さなども相まって、今季のマリノスは、サイドバックボランチによるブラジリアン・トリデンテへのサポートを仕組み化、つまり常にサポートをする構造の落とし込みができなかった。チームのパフォーマンス、とりわけゴールを奪う部分において、試合・メンバーによるばらつきがあったことは、深く関係しているかもしれない。

この点、試合中にプレーが切れたタイミングで選手同士がよく話し合う姿から、ピッチ上で何が行なわれているかを推察することができる。特によく見られるのは、渡辺皓太を中心として、松原健畠中槙之輔らで話し込む姿。マリノスの在籍歴が長く、チーム内で生じる課題に対するアラートが利く選手たちである。彼らがいれば、たとえ立ち上がりが低調であっても、やがてマリノスが優位に立つ時間帯を作れることが多い。

しかし一方で、日本人⇔ブラジル人間のコミュニケーション量の少なさが、ハマった悪循環から抜け出せない原因とみられる事象がしばしば見受けられる。ボランチとロペスの意図がズレたまま、エウベルは孤立、ヤンマテウス松原健と上手くやれてるように見えるけど…の状況。また、エドゥアルド以外のDF陣だけで議論を交わす様子も散見される。こうして左右上下中央が繋がっていない状態のマリノスは、往々にして負のスパイラルから抜け出せなくなる傾向がある。サッカーにタイムアウトの制度がないことから、都度11人で意見交換を行うのは不可能。うまくいかないときにあえてプレーを切って時間を稼ぐ、できるだけ遠くの味方と会話するなど、改善の余地はある。

この点、話す言語の違いから円滑にコミュニケーションが取れなくなることは仕方がない。これまでは監督のマネジメント力やスカウティング、ノリ・勢いでなんとかなっていた部分もあるが、準備不足の状態で臨まざるを得ない今季は、より選手たちのピッチ上のコミュニケーションによって補わなければならない割合が大きくなった。だからこそ、個々のすり合わせが例年以上に求められ、それが不足したことで瓦解したゲームが少なくなかった。解決策が、客観的に見て最適であるかはどうでもいい。こうやる!という方針がチームのなるべく多くの選手に流布されていて、みんなが同じ方向を向いていることが何よりも大切である。大キャプテン・喜田拓也を長期間欠いたことも影響しているのだろうが、マリノスが今以上に飛躍するためには、集団・組織として殻を破らなければならないのかもしれない。これは、2025シーズンになっても変わらない、マリノスの課題である。

特に、渡辺皓太には今以上にピッチ上のキャプテンとして振る舞うことを期待する。

本章のまとめ

  • ブラジリアン・トリデンテは不動の地位を築いており、彼らのクオリティを最大化することがチームの最大値
  • ただし、それだけで崩せない相手に対してはもっと攻撃参加する人数を増やす必要がある(サイドバックボランチが近寄る・裏に抜けるサポートが必要)
  • しかし、いつ誰がどこへ顔を出すか、仕組み化には至らず
  • これに伴い、未曽有の過密日程から、例年以上にピッチ上ですり合わせる必要性が生じた
  • しかし、国籍・言語の違いや選手のキャラクターから、前線と後方の齟齬のすり合わせが円滑に進まないゲームにおいて、悪循環に陥ることがあった
  • 監督が代わっても、選手のキャラクターや人間関係は不変。2025シーズンも必ず残存する課題

 

第3章 No.13がもたらしたもの

10試合7勝1敗2分け。今季、小池龍太が先発したゲームの戦績である。膝蓋骨骨折の大怪我で2023シーズン全てと2024シーズン半分をほぼ棒に振った漢が帰ってきた。

とても偶然とは思えない勝率の良さ。ましてやこの低調なシーズンを鑑みれば、何かしらの相関関係があるに違いない。

誰よりもアタッキングに

マリノスのサッカーは、前線のブラジリアン・トリデンテが作る時間と、後方から飛び出すサイドバックボランチの攻撃によって成り立つ。何を隠そう、後方からの飛び出しにおいて、このチームで最も適切なスペースに、最も適切なタイミングで実行することに長けているのが、小池龍太だ。

スペースの観察力、アジリティなど要素はいくつか挙げられるが、彼の攻撃参加への意識が、マリノスが本来持つ、ゴールを常に目指す精神性とマッチしている点が大きいと私は考える。それが先天的に持っていたものか、マリノスで長くプレーする中で獲得したものかはともかく、他のどの選手よりも早く、いるべき場所にたどり着けること。その1点で、他を凌駕しており、チームの課題に対してフィットしているパーソナリティだ。

周囲に与える好影響

小池龍太がわかりやすく動くことで、周囲に良い影響を与え、好循環が生まれる。

  • 渡辺皓太や松原健は、小池龍太が動くのをきっかけとして、それに合わせてスペースを見つける(チームが連鎖的に動く)
  • アンデルソン・ロペスやヤン・マテウスは、フリーで浮く小池龍太に一度ボールを預けつつ、より相手にとって危険な状況で再びボールを受けることができる

トップ下の一番手は西村拓真

余談にはなるが、西村拓真の貢献についても、現状のマリノスの課題を踏まえた好材料として言及しておきたい。

小池龍太と同様、ブラジリアン・トリデンテに依存しがちなチーム構造において、彼のアクションの多さにより、前と後ろをつなぐハブ役になれる。ロペスが下りて受ける際の相手DFラインをピン留めする、サイドに流れながら裏を取って全体を押し上げる、スペースでボールを受けてキープする、クロスに対してゴール前に入っていく。トリデンテの意図と同期するように常に動き続け、ボールに関与するアクションの多さによって一人何役もこなし、彼らが孤立しない状況を作り出すことができる。

この点では、植中朝日や天野純と比較しても一日の長があると言って差し支えないだろう。

以上、小池龍太と西村拓真を例とし、現状のマリノスの課題において、メンバーさえ揃えば一定の解を見出すことができるとお分かりいただけたと思う。ただし、過密日程下では彼らをフル稼働させることはできないため、やはり根本課題は残存しているとみるべきである。

 

第4章 問われた身の丈

  • ハリーの孤立
  • 相次ぐ歴史的大敗(光州FC→アウェイ広島)
  • 西村拓真のカードトラブル(度重なるアフターチャージによるイエローカード、京都戦の退場)
  • 対戦相手に応じたプラン落とし込みの不足

これらは、現場に対するサポート不足を如実に示す事例である。

メンタルケアの不足

例えば、西村拓真のカードについて、復帰直後から不要かつラフなファウルが続いていた中で、ホーム京都戦では、開始直後にレッドカードが提示され、退場処分が下された。同様の反則によるイエローカードが立て続く状況は、どう考えても異常とみるべきで、正常なマネジメントが働いているのならば、球際への意識の高さとラフプレーを履き違えないことを懇々と諭していて然るべきである。

もう一つの事例を挙げると、vs光州FC、vsサンフレッチェ広島で歴史的な大敗が立て続いたこと。テレビ越しにも明らかなほど、試合展開で旗色が悪くなると、自信と戦意を喪失しているように見えた。長いシーズンで1試合だけ起こるのは仕方ないが、連続することはあってはならない。ジョンのお気持ちスピーチのみでなんとかなる問題ではない。昨今の潮流に則するならば、より個人にフォーカスしたメンタルケアが叫ばれる中で、明らかな不足が見受けられた。

目先の試合に勝つ上での詰めの甘さ

サッカーには相手がいる。その上で、相手はマリノスを擦り切れるほど研究し、どうやったらマリノスに勝てるかを共有して臨んでくる。しかし、マリノスは過密日程によって準備がままならない。これでは不利が過ぎる。勝てるわけがない。

ゲームを見ている中で、相手の強みに対して明らかに不利な戦い方をしている状況が散見される。たしかに、ビデオを見ただけで実行できるかという点では疑問が残る。しかし、これだけテクノロジーが発達した世の中であれば、対戦相手の特徴やそれに応じた自チームのプランを、より五感を通じて習得する方法はないのか?各選手への伝え方は、これ以上ないほど適切なものだったか?そもそもチームの作り方として、より過密日程を念頭に置いた選手起用のマネジメントや約束事の落とし込みができなかったのか?など、数多の気になる要素がある。

クラブがアジア・世界を目標に据える以上、今季のような過密日程は避けられない。マリノスは、中2日・中3日でゲームをこなし続けるのが当たり前のクラブを目指している。その中で、コーチ・スタッフの人員や質は足りていたか、クラブとして過密日程の対策にリソースをどれだけ割けていたか、リーグや他クラブとの日程調整・交渉はうまく行えていたかなど、2024シーズンの「失敗」を踏まえて今後見直すべき課題は山積している。誰もこの現実から逃げてはならない。ACL出場クラブへの配慮がJリーグ側にも足りていないのかもしれない。しかし、マリノスマリノスで多分に足りていない部分がある。それこそアタッキングフットボールの教義に照らせば、どんな時もまずは自分たちにベクトルを向けるべきではないか。

ジョン・ハッチンソンをはじめとした現コーチ・スタッフ陣の仕事を批判したいのではなく、クラブが目指す場所に対して、インフラ面・資金面など、現状大きく開きがあるように見受けられることを訴求したい。こうした課題認識をクラブがどれだけ持っているかを窺い知ることは現状できないが、今後競技面だけでなく、クラブとして様々な分野で拡大できない限りは、アジア王者など夢のまた夢。今季の失敗を来季に、そしてその先に活かせるか。

我々は、日本でまだ誰もやったことがない偉業に挑戦するクラブだ。

 

エピローグ

シーズンレビューを書くようになってから6年目。私の中で、前年の記事を読み返してから書くのが恒例となっているが、私のサッカーを観るポイントが年々変化していることがわかる。解像度が上がっているとか、戦術眼が育っているとか、そういうことではない。着眼点そのものが変化しているのだ。思えば、アンジェ→ケヴィン→ハリー→ジョンと紡ぐ中でアタッキングフットボールの枠組みが完成、他クラブを見てもマリノスに対する戦い方が均一化、試合の構図が変容しない中で、勝つも負けるも変わり映えしなくなってからもう何年が経つだろうか。その中で、より選手個々の思考・キャラクターとその集合体としての組織の動向に関心が向くのは、必然的に起こるサッカー観の適応・変化だったように思う。

今年でいえば、例年以上にマリノスが抱える課題に多くの分量を割くこととなった。これほど勝てないシーズンは、記事を書く活動を始めて以来、初めてのことだったからだ。本稿を読み進める中で、ややネガティブな印象を持った方もいただろう。しかし、ここで挙げた課題において、今まで見えていなかったものはひとつもない。マリノスが強く、当たり前のように優勝を争っていた頃から、すべてが常に内在していた。

だからこそ、この虚無に満ちた2024シーズンを我々はもっとポジティブに捉えることもできるはずだ。今までその存在を認知しながら目を背けることができていた課題に対し、ついにその退路を断たれ、ようやく真正面から向き合わねばならぬと全員が悟ったから。みんなの意思が固まったシーズンだから。

 

「みんなの意思が固まる」と言えば、サッカーの競技面においても同じことが言える。昨今、国内外を含む様々な戦術が生まれている。最強の戦術とは何か?という命題もしばしば目にするが、私個人の見解は、11人が同じ方向を向けている戦術が最強。みんなでボールを奪いに行く、みんなでゴールへ向かう、みんなでゴールを守る。この条件を満たせているのが強いチームであり、相手の対策や選手の好不調・怪我などの障壁を乗り越え、シーズン通して貫き続けられるチームこそがリーグ優勝に値する。

さて、来季に目を向けると、再起を期すシーズンとなる。まず大前提として、常にゴールを目指す、攻撃的なサッカーをやめる必要はない。スカッドを見ても、そのような志向を持った選手たちが揃っており、かつ難しい状況に置かれたときに、ピッチ上の意識・ベクトルをひとつにまとめる下地・基盤があるクラブは、Jを見渡してもなかなかない。そんな宝をわざわざドブに捨てる必要がどこにあろうか。

2024のマリノスには、チームの意思を統一するためのマネジメントが決定的に不足していた。ハリーはその点が資質として問題視され、ジョンは良いときはともかく、悪いときにチーム全体を包括する視点での方向づけができなかった(就任経緯が「選手ファースト」である点でエクスキューズは立つ)。

その中で、チームの意思統一を図りつつ、よりコレクティブでサステナブルなチーム、つまり幅の獲得を追求するのであれば、第2章で述べた現状のアンバランスなチーム構造には手を付けるべきだろう。エウベルやアンデルソン・ロペスにとりあえず預けてなんとかしてもらうだけ。苦しければ苦しいほど、彼らに頼ってしまう。その存在の大きさ故に、チームの幅が狭まってしまうのだ。ならば、ここで血の入れ替えを行い、パワーバランスを変えるのも一手か。頼ってしまうのなら、無理やり頼れない環境にしてしまえば良いだけのこと。もとを正せば、つくづく歪なチーム構造になってしまったことを嘆くばかりだが、ある意味我々が望んだことでもある。能力的に優れた選手の引き抜きを嫌がり続けた結果、彼らが替えの利かない聖域と化してしまった。本来であれば、常に選手を入れ替えながらスカッドの底上げおよび国内トップクラスのクオリティを維持することが理想であるのだが。

いずれにしても、西野努SDの就任により、目先だけでなく、中長期も見据えた舵取りが始まる。具体的には、主力と準主力との開きを埋めるような編成を進めてほしい。どんなに優れた選手であっても、給与体系やチーム内のパワーバランスの健全性担保を最優先として、選手の入れ替えは絶やさず続けてほしい。
断続的に悲しい別れに直面することにはなるだろうが、マリノスが世界と渡り合えるクラブになるために必要な英断である。
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最後になりますが、駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

  • なぜ勝てないチームになってしまったのか?

上記命題への答えや記事への感想など、なんでも良いので、引用リポストやコメントをお待ちしています。本稿が、皆さまにとって2024マリノスを振り返る契機となっていただけましたら、筆者としてこんなに嬉しいことはないです。
また来年お会いしましょう!

 

《宣伝》

❶1/12 Footrico! 公開生放送 in みなトリ祭24/25への出演

マリサポ系情報番組「Footrico!」の公開生放送に、私ロッドが出演させていただく運びとなりました!

https://x.com/footrico_yfm/status/1859962236326088782?s=46

日付は2025年1月12日(日)。場所は、横浜市金沢産業振興センターです。マリノスの新体制をはじめとした未来の話を、MCのnariさん・akiraさんとたくさんお話できればと思っておりますので、ぜひお越しください。こちらの公開生放送以外にも、みなトリ祭はサポーターが作る文化祭で、マリノスをもっと好きになれるイベントになっています。きっと楽しめるはず!!

詳しくは、下記Xアカウントをご確認ください。

https://x.com/minatricofes?s=21

 


❷2/8 マリサポ主催音楽イベント「STEP ON PARTY」

筆者の友人(マリサポ)が2025年2月8日(土)に恵比寿で音楽イベントを企画しています。
今回が3回目の開催!登場するDJも、サポーターをはじめとしてマリノスにゆかりのある方々ばかりなので、ぜひご参加ください。サポーターから音楽の文化を作り、クラブも巻き込むことを目標に置いた活動の一環です!
もちろん筆者も参加します。ご挨拶も兼ねて会場でマリノスの話ができれば幸いです。

詳しくは、下記Xアカウントをご確認ください。

https://x.com/step_on_j?s=21