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【ACL FINAL PREVIEW】マリノスは、アルアインに勝つ。

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Prologue

クラブ史上初のアジア制覇まであとひとつ。しかし、マリノスの今後10年の命運を握るビッグゲームにも関わらず、どこか熱気が感じられない。チケットの売れ行きは好調のようだが、おそらくこのままでは人がたくさんいるだけの横浜国際総合競技場になるのではないかと危惧している。

局面ごとのボールの行方、スローインがどっちのボールか、一つひとつのリアクションに殺気めいた雰囲気を醸成することで、アルアインを飲み込まなければならない。それこそが、ホームコートアドバンテージだ。

そのためには、まず敵を知る必要がある。我々が倒すのはどんな相手か。どこの馬の骨かもわからない奴らに敵愾心を持つことはできない。知って、理解して、憎むところから狂気は始まる。

 

About Them

大前提として、アルアインというクラブは、UAEプロリーグ歴代最多14回の優勝回数を誇る超名門。
ACLでは、2003年に優勝経験がある。

国内随一の強豪とあって、保有選手の市場価値は国内No.1と、豊富なタレントを有するクラブである。今季のACLは、優勝候補筆頭の二大巨頭、アルナスルアルヒラル(どちらもサウジアラビア)を倒してFINALに駒を進めており、彼らがどれほど力のあるクラブかは実績からも窺い知ることができる。

23-24シーズンの歩み:シーズン途中の監督交代

アルアインにとっての23-24シーズンは、困難も多い。シーズン序盤は好発進で首位に立ったものの、23年11月にはアルフレト・スフリューデル監督(アヤックスバルセロナのコーチ経験あり)が就任後わずか半年で退任。急遽、アルドゥハイル(カタール)からエルナン・クレスポ監督をシーズン途中に招聘。その後もリーグ戦を好成績で戦い続けた。

しかし、国内リーグにおける潮目が変わったのは2024年3月以降。ACLノックアウトラウンド進出によって試合日程がタイトになり、選手のコンディションやモチベーションの維持に四苦八苦。暫定ながら、首位と10pts以上離されており、リーグ優勝はほぼ絶望的と言わざるを得ない。

志向するサッカーの特徴と強さの秘訣

志向するサッカーは、近年のトレンドであるヨーロッパのゲームモデル先行型というよりは、選手のタレント・個人技を活かした、南米スタイルのチームである。つまり、明確な戦術の型から逆算したスカッド編成ではなく、能力の高いタレントを中心に据え、パッチワーク的に機能する組み方をしている。

上記の編成上の方針により、ACL FINALまで駒を進めたスタメン11人(+2~3人)の補完関係、各局面の約束事の浸透度および連携の成熟度は、非常に高く、アジア随一と言える一方、リーグ戦を並行して戦う上で、チームの総合力、いわゆる「誰が出てもアルアイン」とは言えない。主力と準主力の差が大きく、外国籍枠に制限がかかるACLでは、後半からゲームの流れを変えられる選手は多くないため、選手交代は80分以降に行われるケースが非常に多い。ここぞというタイミングでエルナン・クレスポの信頼を勝ち得ている選手は、あまり多くはないのだ。

では、アジア随一の機能性・補完関係を誇るアルアインの主力によって織り成されるフットボールの特徴を簡単に紹介する。

先述した「南米スタイル」という言葉に集約される通り、選手個々のテクニックやスピードなどの強みを全面に生かし、規則性が低く、いわゆる「即興」の色合いが強い。特に前線の選手たちは、ポジションの制約が皆無といって差し支えないほど奔放に動き回りつつ、まるでサーカスのようなコンビネーションや爆発的な突破力を武器にゴールに迫る。

この点だけでいえば、能力の高い選手をヨーロッパや南米から買い漁ってテレビゲームのように並べる、中東のクラブにありがちな、「金持ちの道楽」と何ら変わりはないだろう。しかし、アルアインが異なるのは、それを下支えする選手たちの能力、その補完関係が非常に優れている点である。際限なくゴールに迫ろうとするアタッカー陣を諫めるようにボールをキープし、時間を作る選手(前提:そもそも中東のサッカーは、なりふり構わずゴールに向かおうとする傾向が非常に強いため、ペースのコントロールができるチームは多くない)、自由に動き回るアタッカー陣が空けたスペースを黙々と埋める選手などなど…。

彼らの献身的な働きによって、エルナン・クレスポアルアインは、優れた刃と盾を兼ね備えるチームになっている。個々の特徴を全面に活かすサッカーを展開するアルアインを紐解く上では、その刃と盾の特徴、つまりどんなタレントがいるかを押さえておくと理解が容易になるため、以下に数名のタレントを紹介する。この6人を覚えておくと良い。とりわけ"刃"の3人は、ゲームが進む中で否が応でも覚える羽目になるだろうが…。

(相手に想定外をもたらす理不尽アタッカーたち):

  • No.21 ソフィアン・ラヒミ(モロッコ
    今大会得点ランクトップのウインガーウインガーだが、斜め方向の裏抜けを得意とする。スピード・パワーともにアジアトップクラス。シュートセンスも抜群であり、今大会におけるアルアインのエース。チームが押し上げられない苦しい時間帯でも、独力で相手を剥がしてゴールまで持って行ってしまう。スペースがあれば、一人でなんでもできる。
  • No.10 カク(パラグアイ):
    ラヒミを後方からサポートする左利きのテクニシャン。ゴールへ迫るラストパスは、彼から供給される。ブロック構築によりスペースを消された局面で何かができる選手。
  • No.15 エリキ(ブラジル):
    ポジションは左サイドバックだが、なりふり構わず攻撃参加。前線のラヒミやカクと絡んで突破、とにかく突破。また、ビルドアップにおいて対面の相手を引き付けつつ剥がすこともやってのける、左の槍。

(理不尽アタッカーを下支えするキープレイヤーたち):

  • No.6  ヤヒア・ナデル(UAE):
    25歳 178cmのプレーメーカー。ヨーロッパでも通用するほどのポジショニングの理解があり、保持局面では、ハブ役となる。非保持(プレッシング)においても、相手の出方に応じて1人で2人見る、あるいはマークを捨てるなど、ピッチ上の判断も担える点で、クレスポの信頼も厚い。運動量も豊富で、前線へのフリーランも欠かさない。中盤に君臨する王様。
  • No.11 アル・アフバビ(UAE):
    ベテランの右サイドバックであり、アルアインのキャプテン。最大の強みはキック。特に右足から繰り出される超高精度クロスは、守備ブロックの外から脈絡なくビッグチャンスを演出するアルアインの最終兵器。ゲームの展開によってボールを落ち着かせる役割を担い、かつ対面のウイングとの1on1でも粘り強い対応をする。
  • No.20 マティアス・パラシオス(アルゼンチン):
    エルナン・クレスポ就任後、急激に序列を上げたアルゼンチンの同胞。主に左サイドでプレーし、No.15エリキやNo.21ラヒミを活かすキープやスペースメイク、被カウンターに備えた立ち位置など、サッカーIQが非常に高い選手。No.6ヤヒア・ナデルと同様、状況に応じたピッチ上の判断も担う。クレスポが最も信頼を寄せる選手といっても過言ではない。

 

ACLを戦う上で直面する難題
- 外国籍枠問題と大エースの処遇

23-24シーズンACLにおいて、西地区を破竹の勢いで勝ち上がり、ついにFINALに駒を進めたアルアイン。その過程で彼らが向き合わなければならなかった難題を紐解くことを通じて、現在のアルアインの解像度を上げることができる。

大前提として、アルアインには、No.9コジョ・ラバというトーゴ代表のストライカーが在籍している。彼は、直近4シーズンで3度国内リーグ得点王に輝くなど、このクラブでもレジェンド級の実績を残してきた選手だ。
しかし、準々決勝のアルナスル戦、準決勝のアルヒラル戦ともにベンチにすら入らなかった。

これはなぜか。3月に筋肉系の怪我で一時戦列を離れていた背景もあるが、そもそも外国籍枠の関係でメンバー入りすることができなかったのだ。

先述した、「アルアイン層が薄い問題」を紐解く上で、この観点は非常に重要である。
というのも、UAEプロリーグには、移民国家ならではのルールとして、通常どのリーグにもある「外国籍枠」とは別に、「定住者枠」が存在する。
本来的には、はるばるUAEへ移住してくるプレイヤーにUAE人としてプレーする機会を与えることを目的としているが、実情はかなり違う様子。各クラブは、南米やアフリカから有望な若手選手を青田買いし、長期の契約を結ぶことで、UAE人としてプレーをさせているのだ。詳細は、下記リンクの記事を参照されたい。

qoly.jp

しかし、この定住者枠は、あくまでもUAE国内コンペティションのみで許されたルールであり、ACLには適用されない。つまり、国内リーグでは定住者枠=UAE人としてプレーしている選手が、ACLでは外国籍枠扱いとなってしまうのだ。現状、国内コンペティションでは、外国籍枠として5名、定住者枠として5名の計10名を登録することが可能であるのに対し、ACLでは、定住者枠として登録している選手も含めて外国籍枠5名+アジア国籍枠1名の計6名しか試合に出場することができない。この定住者枠には、その他様々な条件が加わるため、厳密には異なる部分もあるが、大枠このような難題を抱えていて、国内リーグで起用している選手のうち、最大4名は出場できない、という点を理解しておく程度で良い。その中でチームのバランスを考慮し、絶対的なエースストライカーを外さざるを得ない、大変厳しい状況なのだ。

おそらくマリノスとのFINALでも、よほどのことがない限り1st legではメンバー外となるのが濃厚である。しかし、スコアや展開によっては、チームのバランスを崩してでも2nd legでのメンバー入りが予測される。

 

Point of This Game

アルアインの守備原則にマリノスは苦戦を強いられる?

アルアインの守備は、マンツーマンを基調としている。誰が誰に付くか、人を基準として、ボールを奪おうとする。よって、基本的にマリノスの選手がどこに動こうとも、必ず付いてくる。例えばナムテヒが降りても、永戸が裏抜けしても、アルアインはマークを受け渡すなどして対応してくる。

FINAL前最後のホーム磐田戦にて、磐田も類似した体系にて守備を行なってきたが、マリノスは後方からのビルドアップに大変手を焼いた。特に左サイドは、エドゥアルドが時間を享受できる状態でボールを持ったところで各選手がマークを外す動きと合わず、安定して前進することができなかった。一か八かの縦パスを強引にアンデルソン・ロペスが収めたり、エドゥアルドからのロングボールのこぼれ球を拾えたときに二次攻撃に繋げるなどして、攻めることはできたのだが。

磐田戦のスタメンが1st legの軸になると仮定すれば、とりわけ左サイドの機能不全は一朝一夕に改善される類のものでないため、大幅な改善は見込めない。基本的には、このまま挑むしかない。

マリノスの生命線は?

しかし、今大会のマリノスの勝ち上がりを鑑みれば、大会途中で監督交代があったり、怪我人続出でメンバーが揃わなかったりと、ビルドアップの成否が結果に直結しなかったことは今さら言うまでもない。
では、マリノスは何で勝ってきたのか。

私は、Jリーグのベースでアジアの各クラブに挑んだときに、そもそも優位を取れた側面は大きいと踏んでいる。昨今のJリーグは、とりわけ中盤の強度が高く、日々セカンドボールの回収合戦にしのぎを削る中でマリノスも高いレベルでこれを制するチームである。準決勝・蔚山戦2nd legの前半30分間は、1点ビハインドという状況も相まって、マリノスの強みであるハイインテンシティが存分に発揮された時間帯であり、ものの見事に蔚山を飲み込んだ。

山東戦も同様である。4度対戦しても、ホーム/アウェイを問わず、マリノスが恒常的にチャンスを作り続けたゲームであり、山東が緩く見えた部分もあったが、私は両クラブの間にあるベースの差を感じた。各選手の特徴・個性による差分も多少はあるものの、チーム全体で共有しているリズムやテンポの違いは、確かに存在しているように見えた。

これらを踏まえて、今度はアルアインーー中東・UAEのベースと戦って上回らなければならない。特に、予測と出足の早さにおいて先手を打つことが肝要と考えられるが、ここは当日やってみないとわからない、出たとこ勝負である。

1st legは、両クラブひいては両国のベースをぶつけ合わせたらどうなるかを確かめる場でもある。マリノスとしては、アルアインを凌駕するポイントを見つけ、それを肥大化させる戦いができれば、きっと優位にゲームを進められるはずだ。

 

Predicted Lineup

予想スタメン

 

Epilogue

180分の長き闘い、死闘は避けられない。
このゲームの勝敗に、この先10年のクラブの未来が懸かっている。