StoryTeller

横浜F・マリノスを中心に、サッカーの奥深さ、戦術の面白さを伝えたい

MENU

2分でわかる!2023マリノスの強さと煮え切らなさの正体

f:id:rod25:20230324074509p:image

2023シーズンが開幕して1か月以上が経った。リーグ戦で言うと、3勝1分け1敗の勝ち点10で3位。結果だけ見れば、好発進といえる。その一方で、どうも漠然としたモヤモヤというか煮え切らなさを皆さんは感じているのではないだろうか?試合を見ていると、明らかにここ数年のマリノスとは異なり、相手を強引に振り回すような強さが見えない。「今季のマリノスは面白くない」という人がいても不思議ではない。

この煮え切らなさの正体を解きほぐしたい。だから私はいま筆を執っている。

 

テーマは、「目の前の試合に確実に勝つ」

話は、2022シーズンに遡る。クラブ創設30周年をリーグ優勝という最高の結果で締めくくった一方で、大きな課題としてカップ戦の早期敗退、つまり、必勝を期す試合で勝てない現象が数多く見られた。これはリーグ戦にも言えること。10月に残留争いの渦中にあったガンバ大阪ジュビロ磐田に難攻不落のホームで連敗を喫したことは、マリノスにとって課題以外の何物でもない。

今季取り組んでいることは、この文脈の延長戦上で考えると案外しっくりくる。

例えばそうした傾向は非保持に色濃く出ている。昨季は、WGの外切りをベースとして初期配置の段階から襲い掛かるようなプレッシングを展開したのに対し、今季はまず4-2-4でセットした状態でスタートし、そこから人を捕まえに行くようなプレス設計になっている。当然、相手チームがボールを保持する時間は長くなるのだが、一方でメリットも享受している。具体的には、簡単にSBの裏を使われにくくなったこと。それこそチアゴ・マルチンスが最終ラインに君臨していた時代から、マリノスは常々このスペースを使われた挙句、失点を重ねてきたが、今季こうした場面は比較的減少している。例えば劣勢の場面で右SBに上島を投入する交代策が有効打になっているのは、速く強く前に出て相手を捕まえる能力よりも最後尾で構えて跳ね返す能力がサイドバックに求められているからともいえる。

 

煮え切らなさの正体と西村拓真の"ふしん"

ある意味普通のチームになりつつあり、見ていてワクワク感は減退しているのかもしれない。昨季までであれば、常に試合を動かし続けていたのに対し、今季は「何もない時間」が一定ある。転じて、ゴールを脅かすようなシーンが少ない。そもそもこれまで対戦したのが軒並み地力のあるチームだったことや、非保持の時間が増え、相対的にマリノスが試合を動かす回数が減っていることなどが原因として挙げられるが、ここではマリノスの保持における課題に目を向けてみたい。

まず、具体的な方法論を簡単にまとめる。プランAは、マリノスの強みである左サイドのエウベル⇔永戸ラインの突破力を活かすこと。ここで優位を取るための前進ルート設計をいくつか有している。そもそもこのリーグには、「マリノス対策」が広く流布されており、無防備で挑んでくるチームはほとんどいない。例えば永戸を押し下げることによってエウベルを孤立させてくる相手ならば、右サイドの密集ポゼッションでの前進を、高い位置を取る永戸にマンツーでサイドハーフがついてくるならば、CB角田→エウベルのパスコースを使ってカットインから前進というように、相手の出方に応じてルートを変えることで、今や左右どちらからでも安定して前進できるようになっている。マリノスがやりたい、相手を押し込む構図に持ち込むことができる。仮に相手が「マリノス対策」を打ってきたとしても、それを御す術を有している、これこそが今のマリノスの強さである。

しかし、現状その先に問題を抱えている。相手チームからすれば、押し込まれることを許容し、待ち構えてしまえば決定機を作られずに済ませられると自信を持っているのだ。特に、エウベルと永戸の2人に人数を割いて対応すれば、致命的なピンチは作られない。

この点、ケヴィンは右と左を繋ぐ役割としてトップ下の西村に期待している。ただし、明らかに要求レベルが高い。右前進ならばサイドに流れて受け、左前進ならば中央に立ち、カットインするエウベルとリンクを作る。しかも最終局面ではゴール前へ飛び込む。文章にすれば単純なようだが、目の前の相手に対してどれが有効なのかをピッチ上で判断しつつ、これを90分間やり続けるのだから、難易度はかなり高い。第2節の浦和戦で、西村の走行距離は14kmを超えた。しかし、これは決してポジティブな数字ではない。むしろ多分に伸びしろを抱えている。今この瞬間、自分に何が求められているのか、味方と相手はどう動いているのか。刻々と変わる状況に右往左往した結果、ある意味走らされた側面が強いといえるだろう。

西村は、鹿島戦後のインタビューで次のように答えていた。

無駄な動きが多いことが分かった。守備で走らされていることも多くて、自分が走ることで味方のスペースが消えてしまうこともあった。力の使いどころやプレー強度はもっと伸ばせる。走りの質を上げる、賢く走ることができるように

hochi.news

日本代表に選出され、チーム内の立ち位置は盤石と目される西村拓真でさえも日々成長を続けている。我々はその過程を追うことができる。だからこそ私は、毎試合このチームを見守るのが楽しいのだ。