StoryTeller

横浜F・マリノスを中心に、サッカーの奥深さ、戦術の面白さを伝えたい

MENU

ハリー・マリノスはなぜ勝てないか、知りたい人のために。

f:id:rod25:20240705130926p:image

マリノスが苦しんでいる。

首位と17pts差、降格圏と8pts差の12位。目下3連敗中で、G大阪(3位)→鹿島(2位)→町田(1位)と、上位陣との3連戦を明日に控える絶望的な状況。現在のチーム状態がそのまま結果に反映されるなら、リーグ6連敗は必至。

思えば昨年の今ごろ、我々は優勝争いをしていた。
ピッチ上の顔ぶれはあの時とほぼ変わらない。なのにどうして・・・。

この点、ピッチ外に原因を求め、腹落ちさせることは容易だ。強化部がオーストラリア繋がりで無能な監督を招き、かつまともな補強をしないから。サポーターに逆ギレするハリーは経験不足の異常者だから。

たしかに、現時点で明確にこれらの言論を否定するに足るファクトは見えていないかもしれない。

しかし、その眼差しをピッチ上に向け、純粋にこう思っている人も多いはずだ。
なぜ勝てないのか?
見ていて面白かった、そして何よりも強かったマリノスのサッカーはどこに消えてしまったのか?

そういう人に一筋の光、兆しを。
また、なぜアンカーにこだわり、ダブルボランチにしないのか。本稿では、その疑問も明らかにする。

最初に結論から述べよう。ハリーは、アンジェとケヴィンが目を背けてきたマリノスの課題と真正面から向き合い、全く異なる考え方をもとにチームを再構築している

では、マリノスの課題とは何か?ハリーの考え方とは何か?

それを紐解くにあたり、まずはアンジェとケヴィンが放置してきた課題に目を向ける。

この先の内容、ひいてはハリーの取り組みを理解するにあたり、アンジェとケヴィンを悪者と位置付けたほうが案外しっくりくるかもしれない。彼らは、自らの立身出世のため、目先で結果を出しやすい戦術だけに目を向け、本来取り組むべき課題を放置したままクラブを去った元凶であると。マリノスがこの先どうなろうと構わない、薄情者だと。

アンジェとケヴィンが放置した課題とは?

ボールを奪えば、即座に前線へ。エウベル、ヤンマテウスアンデルソンロペスの強力トリデンテにボールを預ければ、勝手にゴールを奪ってくれる。それは、ある種2019年後半にも同じことが言え、仲川輝人(全盛期)、エリキ、マテウス、マルコスジュニオールにボールを渡すだけ。前線は好きなだけ走って相手を破壊する一方、そこに預けるための構造はデタラメ。ただ預けるだけ。その歪みを、チアゴマルチンスや岩田智輝が一手に引き受ける。

ここにアンジェとケヴィンが放置した課題がある。とりあえずエウベルに預けて運んでもらう、とりあえず裏に蹴って仲川輝人に走ってもらう。相手にとってわかりやすいパターン攻撃、奪われた後の状況を度外視した陣形の間延び、そして、各選手のコンディションや負傷、移籍によってチームの根幹が揺らぐスカッドのアンバランスさ。

だからこそ、マリノスは過密日程が苦手(選手のコンディション維持が困難、かつターンオーバーによって組織のバランスが崩れる)で、弱点が明確かつ対策もされやすく、そこに対応する術も持ち合わせなかった

まとめると、ケヴィンがマリノスを離れた2023年終了時点で、マリノスのボール保持には、以下の課題が手付かずとして残った(下図参照)。

全体が間延びし、後ろに重心のかかった陣形

図1:マリノスの課題

図2:あるべき姿

3トップ+トップ下の4枚が主攻となるパターン(図1)と、フィールドプレイヤー全員が状況に応じてアタッカーにも守備者にもなれるパターン(図2)。ある種の使い分けはできた方が良いだろうが、図2の方が好ましい。人数をかけて攻撃することができ、かつ一度奪われたボールも奪い返しやすいから。

人によっては、図2はラインの裏を使われやすくなるのではないかと、守備面の心配をするかもしれないが、プレッシャーがかかった状態であればDFライン裏に精度の高いパスは出にくく、かつ図1の場合は、間延びによって生じたDFライン手前のスペースを使って攻撃されやすいことから、図2以上に好ましい状態とは言えない。

結論、図1の状況を作り続けてきたのがアンジェとケヴィンのマリノスであり、彼らはずっとそれを放置してきた。そして、今まさにハリー・キューウェルはその課題に愚直に取り組んでいる。

根本から「考え方を変える」ハリーの取り組み

図2の、全員がアタッカーにも守備者にもなれる状況を恒常的に作り出すことが大目的なのは、ご理解いただけたであろう。おそらく、ボールと相手チームがいなければ、スムーズにこれを行うことができる。しかし、ボールとそれを奪いに来る相手チームがいる状況で90分間やり続けるのは、殊更に難しい。

相手がボールを奪いに来れば、背後が手薄になる。手薄な背後を攻めれば、ゴールへ向かえる。昨季まで同じメンバーでやっていた速攻。しかしそれをやってしまうと、結局図1の間延びした状況になる

ここで「時間を作る」という概念が出てくる。相手が奪いに来るボールをキープしつつ、その隙に全体を押し上げる。時間の作り方はたくさんある。テクニックのある選手がボールを数秒間持つ、バックパスや横パスを使って相手の目線を動かすことで、プレッシャーがかからない状況を作る。この点、上島とエドゥアルドによるパス交換も、意味がある。彼らがボールを繋いでいる間に、各選手が立ち位置を整理し、全体を押し上げる準備をすることができるから

つまり、今まではひたすらゴールだけを目指せばよかったものを、少し待つ、後方を見てプレーするなど、一つひとつの判断、プレーに対する考え方を全員が変えなければならなくなった

当然、選手間で理解度に差分が生じる。ハリーの意図を汲み取れる選手とそうでない選手が出てくる。そこに追い打ちをかける連戦・過密日程。練習もままならない、常に同じメンバーで試合はできない。この文脈で今問われるのは、テクニックやスピードではなく、新しいサッカーを理解し、ピッチ上で体現すること。身体でなく頭脳だ。

ハリー・マリノスの進捗・現在地

シーズンも半分を終えたが、ハリーは、前に人数をかける攻撃の落とし込みに取り組み、マリノスの積年の課題と向き合っている。この頃は、1試合の中で数回狙った形で攻撃し、点を取ることもできるようになってきた

しかし90分間、恒常的に好ましい状況を作り続ける点において、大変苦労している。ただでさえ存在する選手間の理解度の差が、選手交代によってより際立つ。相手の戦術変更への対応にも遅れが生じる。

その結果、1試合の中で生じる数回のミスが、試合のスコアに直結している。J1では、そうした綻びを見逃してくれない。だから勝てない。

なぜアンカーシステムにこだわるのか

ここまで述べればもはや蛇足だろうが、アンカーを置くこと自体、ハリーは強くこだわっていない。むしろ、前線に5枚を置くことにこだわっている

「守備面に問題がある」
「喜田にはアンカーの素質がない」

そうじゃない。とにかく前線に人数をかけて攻撃するのだ。

3トップ+トップ下の計4枚だけで完結するのではなく、5枚あるいはもっと多くの人数をかけること。カウンターが致命傷になっているのであれば、奪われる前の保持を見直すこと。全員で一緒に前進できているか、全体を押し上げられているか。奪われた後、即座に奪い返せる構造で攻撃できているか。

そのために、後ろを薄くしてでも前線に人数をかける配置を組んでいる。故に、4-1-2-3をやり続けているのだ。今いるメンバーがやりやすい戦い方でなく、あるべき姿へのアジャストを選手に求めている。先述した通り、考え方を根本から変えている故、上手くいくには相当な時間がかかる。

まとめ

試合中、もし一瞬でもピッチ上の出来事に目を向ける余裕があるのなら、以下のことを意識してみると、ハリー・マリノスの志向する「みんなで一緒に前進し、人数をかけて攻撃するサッカー」完成への進捗が見えてくるかもしれない。

  1. ゴールを狙う際、何人で攻撃しているか。誰が攻撃に参加しているか
  2. どうやって前線にボールを送り込んでいるか(一足飛びに前線に預けてそのままゴールへ向かっているか、一度やり直すなど、陣形を押し上げる工夫をしているか)
  3. 1と2を続けられているか(選手交代や相手の戦術変更に関わらず)

アンジェとケヴィンの栄光には、影がある。その影に真正面から向き合うハリー・キューウェルの道筋をみんなで見守ろう。