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【Match Review】EURO2024 Group F ポルトガルvsチェコ

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LineUp

Starting LineUp

 

Story of the Game

①強者・ポルトガルチェコを走らす

立ち上がりからボールを握って攻勢に出たのはポルトガル

右サイドでベルナルド・シウバがボールを持てば、チーム全体がポジションを取る時間ができ、左サイドのジョアン・カンセロとラファエル・レオンのコンビは、大外と内側を行き来しながら流動的にポジションチェンジを行う。攻めの糸口はサイドから。単純なクロスでも、中央でクリスティアーノ・ロナウドが待ち構えているのだから、やはり個の質が伴った強者である。

これに対し、チェコがどう守ったか。

まずこのチームの強みとして、身長が高い選手が多く、特に3バックは空中戦に滅法強い。試合を通じて、10本以上のコーナーキックポルトガルに与えられたが、ほとんどチャンスを作らせなかった。

よって、単純なクロスからポルトガルが点を取ることは難しい。そうなれば、地上戦の勝負になる。

結論から言えば、前半のチェコは、流動的なポルトガルの左サイドに対して、実にスムーズなマークの受け渡しを行いつつ、スペースを狭くして守ることで、ブロック守備からの決定機をほとんど作らせなかった。

ポルトガルの逸材、ラファエル・レオンは、広いスペースがあればスピードと強さ、体格にそぐわぬ敏捷性を活かして、一人でなんでもできてしまう。しかし、チェコの守備陣形および味方がサイドに密集する状況によって、かえって窮屈そうにプレーする事態となり、ポルトガルは左の翼をもがれた形に。

このままチェコが難なく守りきるかと思いきや、レオンを封じられたくらいで黙っているポルトガルではなかった。ポイントになったのは、横の揺さぶりヴィティーニャの存在。左サイドから強引にこじ開けることを諦め、左で引き付けて素早く右に展開するなど、左右に大きくボールを動かし始めると、チェコ2トップのシックとクフタを中盤に下ろすことでなんとか横幅を守れている状況に。また、ボランチのヴィティーニャが中央突破からミドルシュートを放つなど、ゴールに近づくプレーも徐々に増えた。

その結果、チェコは35分が過ぎると早くも疲労の色が見え始め、横の揺さぶりについていくのがやっと。もはやゴールを奪いに行くなど到底無理筋な状況に追い込まれた。その中で、キャプテンのソウチェクがピッチに座り込む。おそらく、ひと呼吸入れ、味方同士で話し合うための時間を意図的に捻出したのだろう。

この時間帯は、ゲームのターニングポイントだった。ポルトガルは攻めの糸口を見つけ、おそらくこのまま続けていれば、ポルトガルが前半に先制点を奪っていたかもしれない。チェコは、経験の浅い国内組の若手が多いチームであり、その中で経験豊富なベテラン、ソウチェクの状況を見た狡猾な振る舞いがチームに与えた影響は大きかった。

②勇気と魂の先制点

後半に入って、チェコは構造こそ変えないが、立ち上がりから勢いを持って攻めに転じる場面も少しずつ出てきた。おそらくハーフタイムで、勇気をもって前に出ていくことをメッセージとして強く押し出されたのではないかと見る。特に、中盤のシュルツとプロヴォドが、シックを追い越してボックス内に顔を出す回数が増えた。

ポルトガルも、チェコが自陣に釘付けで、かつスピーディーなカウンターを仕掛けてこない(それに適した選手がいない)ことを見越して、3バックの左を務めるヌーノ・メンデスを高い位置に置くなど、より圧力を強めた。

一進一退の攻防が続く中、チェコは60分、シックを下げる賭けに出る。投入されたのは、若いリングルとヒティル。直後、このゲーム一番の勢いをもって敵陣に攻め込むチェコ。最後は、クロスのこぼれを拾ったプロヴォドが右足一閃。スーパーゴール。

チェコとしては、交代策が、前線にエネルギーをもたらす形で明確なメッセージとしてピッチ内に伝わり、最高の形で実を結んだ。60分という早すぎる時間帯に、大エース、パトリック・シックを下げる選択。ハシェック監督にとっても懸けであっただろうし、これほど強いメッセージはない。

③勝利を目指して、最後まで

チェコの先制直後、ポルトガルがレオンに替えてディオゴ・ジョタを投入し、カンセロを右サイドでベルナルドと組ませる配置に変更。ロベルト・マルティネス監督は、前線の流動性を捨て、各自の立ち位置をシンプルにした。特に、クリスティアーノ・ロナウドの周囲でフィニッシュワークに絡めるディオゴ・ジョタの投入は、ビハインドを負うポルトガルの攻勢に拍車をかけた。

そして実を結んだファーサイドからのクロスの折り返し、CBフラナーチがまさかのオウンゴールポルトガルが同点に成功。

チェコとしては、クリスティアーノ・ロナウドへのクロス対応も問題なく凌げていたし、残り時間を守りきること選択もあっただろう。ましてや大会のレギュレーション上、グループ最大の難関であるポルトガル戦に引き分けることができれば、相当なアドバンテージにもなる。

しかしハシェック監督は、最後までゴールに向かう選択をした。理由として考えられるのは、前半押し込まれ続けた時間帯がやはり相当苦しかったということ。また、そもそもチェコが攻撃主体のサッカーを志向するチームということもあるかもしれない。

79分の交代策を見ても、プレーメーカータイプのバラクを投入するなど、最後まで貫き、1点をもぎ取って勝とうとしていることは明確だった。

しかし、結果的にはそれが裏目に出た。アディショナルタイムに突入し、ややオープンになった状況で、ポルトガルの途中出場のペドロ・ネトからチコ・コンセイソン。逆転。若きセンターバック、フラナーチは、最後の最後でこのゲーム2回目の致命的なミスを犯した。

2-1。ポルトガルが、苦しみながらも初戦をモノにした。

 

Summary

私は、このゲームで初めてチェコを見た。試合を通じて、守備の時間が長かったが、ハシェック監督の采配を見ていると、常に点を取りに行きたい志向を持っていそうである。このゲームではあまり見られなかったが、前線にパトリック・シックという大エースが、中盤には、巧みに時間を作りながらタクトを振るうアントニン・バラクらを擁し、国内組の若手も勢いがある。前半立ち上がりのビルドアップ局面では、センターバックのフラナーチが中盤の高さに移動する形を見せたり、相手のゴールキックでは前線3枚を並べて前から奪いに行こうとする素振りも見られた。チームとして、点を取るための手段はいくつか持っており、Group Stageの残り2戦ではポルトガル戦よりも幾分かチャンスも作れるだろう。その状況で何を見せてくれるか、非常に楽しみになった。

一方のポルトガル。このゲームでは苦しんだものの、優勝候補に挙げられるだけの総合力を有していることがわかった。ラファエル・レオンという異物の存在、相手を押し込む形、途中交代で出てくる選手の質の高さ。どんな相手に対しても有効な武器を豊富に有していることは、まさしく強者の証。

どこまで勝ち進むか、楽しみなチームである。