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横浜F・マリノスを中心に、サッカーの奥深さ、戦術の面白さを伝えたい

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2023J1第8節 湘南ベルマーレvs横浜F・マリノス プレビュー

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About Them

位置づけ・目標

山口監督3年目を迎える今シーズン。湘南は、開幕から鳥栖相手に5得点を奪い大勝するという衝撃のスタートを切った。今季の目標は、上位に食い込むことであるが、それと同じくらい、自分たちのサッカーの体現、いわゆる"湘南スタイル"を貫き通すことも山口監督は志向しているだろう。

思い返せば、残留争いという生死の境を行き来するシーズンも少なくない。時には"湘南スタイル"を脇に置いてでも目先の勝利にこだわらなければならない時期を過ごしてきた。

そんな中で、今季は1チームのみ降格というレギュレーション上の特性も相まって、再び開幕からあるべき姿に向かって歩みを進めている。

 

どんなサッカーをしている?

システムは3-5-2ベースであり、これは従来と変わらない。素早いショートカウンターと奪われた後の切り替え・強烈なプレッシング。

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私は前節・FC東京戦を現地で見たのだが、即時奪回プレスの意識には改めて目を見張るものがある。たとえパスミスやコントロールのミスが起こったとしても、誰も天を仰いだりはしない。そのまま動きを止めずにボールホルダーに襲いかかる。ミスは起こるものとして捉え、積極的なトライにチーム全体が前向きなのだ。このリスクを恐れない攻撃性は、間違いなくこのチームの良さであり、曹貴裁が率いていた頃から脈々と続くチームのカルチャーである。

そして現在チームを率いる山口監督は、ひとつビルドアップというエッセンスを加えている。

キーマンは杉岡。3バックの左を務める彼は、ボールを運べて、かつ中距離の鋭いパスを差すことができる。そしてその脇を支えるのがGK富居(ソン・ボムグン)とWB中野の2人。まず中野は、右利きのドリブラーだが、あえて低い位置を取ることで杉岡をサポートする。前から来る相手に対してボールを隠しながら持つことができるため、プレス回避には打ってつけの人材なのだ。一方の富居は、中距離の浮き玉ディストリビューションパスで中野へ直接つけることもできる。対戦相手からすると、杉岡を封鎖しても中野に飛ばされ、杉岡を放置すれば運ばれるジレンマに陥る。

上記の通り、うまく相手を引き込んだ後は、前線に待ち構える2トップと2人のIHが上下に動きつつボールを引き出し、そこから得意の速攻でゴールに迫るのが定番の形。今季はここにガンバから小野瀬を加えたことで、ショートカウンターの鋭さは例年より増している。逆に懸念点は、大橋の負傷離脱。開幕戦でハットトリックを達成したアタッカーは、町野の降りる動きに呼応するように最終ラインの背後に飛び出す動きでゴールを量産した。しかし3月の川崎戦で負傷して以降、直線的にゴールへ向かう動きは、ある程度分業制になっている。中でもIHタリクが頻繁にそうした動きを見せるが、DFを振り切る速さと決定力の面で大橋と比較してややスケールダウンした印象を受ける。

 

 

Point of This Game

試される湘南スタイル、その覚悟

まずは湘南の左前進ビルドアップ設計に対するマリノスの出方を考える。

ゴールから逆算して考えれば、湘南の2トップ+2IHに対して最低4枚、1枚余らせるセオリーに倣えば、5枚は確保したいところ。例えば、畠中と角田のセンターバックコンビに喜田と渡辺のダブルボランチを残し、逆サイドの永戸が1枚余る形は想像に難くない。

では、はたしてマリノスの使命でもある前へのベクトルを保ちながらこの形を作り出すことができるか。

結論から言うと、可能。いつも通り4-2-4で構えたところからスタートし、トップ下の西村(マルコス)がアンカー・永木を、右ウイングの水沼が杉岡を捕まえる。そしてプレス回避の急先鋒、中野を右サイドバックの山根(松原)が捕まえられれば、一旦ビルドアップに蓋をすることはできそうだ。このプレッシングの成否を決めるのは、やはり山根が中野を捕まえられるかという部分になる。今季マリノスが取り組んでいる、4-2-4でセット→マンツーマンプレスの構造ならば、噛み合わせ上浮く湘南のウイングバックの立ち位置に到達するまでの距離は短くなるため、その点ではハメやすい構図は作れそうである。

もし仮に立ち上がり10〜15分の時間帯に高い位置でボールを奪うシーンを作れた場合、それ以降湘南がどこまでこれを貫いてくるかというのはもう一つの焦点になる。昨季まではウェリントンが君臨し、困ったときは彼に放り込めばなんとかなる部分はあったのかもしれない。しかし、彼はもういない。

 

"何もない時間"は相手もつらい

立ち上がりの湘南は、まず前から奪いにくるだろう。2トップがマリノスボランチへのパスコースを遮断した状態でボールを持つセンターバックにアプローチ。ひとたび2トップがスイッチを入れれば、IHがマリノスサイドバックへという具合に、人を捕まえにくる。ここは、マリノスサイドバックの立ち位置とロペスの斜めに降りる動きを使っていなすことができるだろう。これは最近の試合を見ていてもそうだが、ある程度縦のコンパクトさを犠牲にして奪いにくる相手に対する解の見つけ方は早い。しかし、それも長くは続かない。対戦相手がこれじゃいかんとばかりに間延びを避ける、つまり前から追うのをやめ、ゾーン2で縦幅コンパクトなミドルブロックを形成する。そこから始まる我慢比べ。

現状のマリノスは、まだこの状況から即座に何かを起こせるほどマシーンじみていない。むしろ何もない時間が流れるように見え、人によっては「つまらない」とさえ感じるだろう。しかし、相手はどこかで必ず出て来ざるを得ない。相手視点に立つと、スローでじわじわ押し込まれ続ける構図は、かなり苦しい。

今までのマリノスにはなかった、配置や構造をじっくり見られる時間。その中で、選手の立ち位置の面でどんな工夫をしているか、そしてそれが相手にどんな影響を与えているか。

ぜひ注目して見てみてほしい。

 

 

Lineup